小売業のテレワークモデル
販売・製造など出社が必要な仕事はテレワークできない、というご意見をたくさんいただきます。
その小売業界の中でテレワークができる経営方法を貫かれている企業があります。
子供服で有名な西松屋さんです。
ITメディアで8月24日に掲載された記事
「店内は客が少ないのに25年連続増収 西松屋がコロナ禍でも絶好調の理由」
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2008/24/news011.html
で大変詳しく書かれています。
記事情報部分要約
- 21年度の売上予測を上方修正、経常利益は前年対比3.7倍
- 2020年4月~5月の客数は前年同月比95~98%、売上は101~107%
- 顧客満足度と効率性を追及すれば売上も利益もついてくる
- 300坪の店舗を3~4人のパートさんでまわし、店長は1人で5店舗掛け持ち
- 正社員1人あたりの売上2億円
- 日本国内に1000店舗、1店舗あたりの売上は1億4000万円
- 10万人の商圏に対して1店舗出店予定
上記情報に加えて同業である赤ちゃん本舗との対比も掲載されています。
赤ちゃん本舗との対比
赤ちゃん本舗
- 売上高967億円
- 店舗数118店
- 1店舗あたり坪数500坪
西松屋
- 売上高1428億円
- 店舗数1006店
- 1店舗当たりの坪数300坪
この対比だけ見ると、1店舗あたりの売上は赤ちゃん本舗の方がよく、坪効率も大変高く感じます。
しかしこの数字は、西松屋の『顧客満足と効率性の追求』戦略によるあえて抑えられたものでした。
西松屋の顧客満足策
- 通路を広く取る(ベビーカー3台が横並びになれるほど)
- 過剰な接客をしない(お客様への声掛けや提案などしない)
- 郊外かつ大通りから1本入った場所など、車で来店しやすい立地
- 運転が得意でない人でも来店・駐車しやすい立地
- ワンシーズンで着れなくなる服をできるだけ低価格で提供(1着299円など)
西松屋の考え方には、
- 無駄なコストを省く
- 顧客がストレスなく買い物できれば再来店につながる
- 売り場がシンプルなら顧客の買い物時間が減る
- 価格を抑えれば購入点数が増える
- 売上と利益は顧客を満足させられればついてくる
- 利益を最大化するための努力は徹底する
といったもので構成されています。
店舗がガラガラなのは、来店客にとってもストレスが無く、店員も最小限で抑えられます。
店長が5店舗掛け持ちというところもポイントで、西松屋では店舗における正社員の業務を最小化しました。
- 陳列は本部が作ったレイアウトを写真の通り配置するだけ
- マネキン、タイムセール、ワゴン販売などの廃止
- 本部の在庫管理責任者が値下げ・返品などを行うため店舗において在庫管理なし
- BGM、スタンプカード、お客様リストなどなし(アフターメンテナンスやコストがかかるものは使わない)
- 現場の裁量、工夫をなくし業務遂行のみを追求
戦略としては他の小売業の皆さんが怖くてできそうもない戦略ですよね。
ここまで思い切ったことができるのは、ターゲットの心理をしっかり理解した結果です。
子育て中の家族の可処分所得が下がっている → 安くていい商品を提供すれば買ってくれる
つまり販促活動も接客の工夫もレイアウトや店内のBGMも本来顧客が求めているものではなく、本来求めているものは
「わが子の成長に合わせて服を用意し続けたい」
ということではないでしょうか?そのため商品(顧客に提供するもの)以外を徹底して排除・削減した結果が今の業態となったのです。
ここまではマーケティングの話ですが、ここからはテレワークの話です。
コロナ対策としては西松屋は大変良いモデルです。客も店員も300坪もある店内で数名しかいません。
コロナ対策以外も含めてテレワークを小売業が行うポイントがあります。
それは、
本部が在庫や陳列など一括管理すること
です。
つまり、店舗ごとに持たせていた責任や業務をできるだけ排除し、本部において一元管理を行うことです。そうすれば西松屋のように店舗におけるスタッフの数、特に正社員の数を減らすことができます。
ただ減らすのではなく、業務負担や責任を減らすことで社員のストレスも軽減します。
お店の業務
- 陳列(指示通りに行うだけ)
- シフト←店長はここだけ
- 掃除
- 接客(レジ対応)
本部の業務
- 発注、在庫管理
- 陳列、レイアウトを考える
- 販促(広告宣伝等)
- 売上、販管費などの管理
ここまで完全に割り切り、業務を店舗から省けば人員は最小限ですみますが、現場はそれでやりがいはあるのか?という疑問は残りますね。
しかし、これが小売業がテレワークをする一つの答えであることは間違いありません。